『Don’t feel』

2005年3月21日
 ひゅっと喉が音を立てた。

 ずっと聞きたくなかった言葉を、耳元で囁かれた。
 知っていたんだろうと言われれば、喉が震える。まるで子供のようにしゃくりあげそうになる肺や喉に、ぐっと力を入れて耐えた。それだけでなく、身体のあちこちに力を込めた。そうでもしないと、全身が震えだして止まらないような気がしたから。
 知っていた。
 ずっとずっと、知っていたけど、知らない振りをしていた。
 それだけのこと。

 ぎりりと音が立ちそうなほど、奥歯を硬く噛みしめると、なんとか色々なことから耐えることができると気付いた。それでも少しでも力を抜けば、嗚咽のような声が溢れそうになるし、瞼の裏が何かに滲みそうにもなる。
 少しだって気を抜けない。
 ほんの少しだけ、力を抜いた途端、この均衡は崩れ去ってしまうから。
 だからぎゅっと目をつぶった。
 それなのに塞ぐことのできない耳から、次々と言葉が飛び込んでくる。
 耐えられなかった。

 触らないで。
 たった一言。
 がちがちに固まった顎から少しずつ力を抜き、震える唇を微かに開いた。気を抜いた途端、痙攣しそうになる喉には相変わらず力を込めたまま、呟いた。その一言が限界だった。
 いつになく俊敏に、またぐっと顎に力を込めて、奥歯を噛みしめる。このまま奥歯がすり減って平になってしまっても構わない。真剣にそう思った。
 それでも耐えねばならないと思ったから。
 触らないで。
 ただひたすら、それだけ願った。

 おねがいだから。
 わたしのこころにさわらないで。

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