『Don’t go away』

2005年3月27日
 雪が降っていた。
 はらはら。音もなく。

 教室で受け取った卒業証書は、ただの立派な紙切れだった。当たり前のことだけれど。
 最後ということで、友達らと写真を撮ったりしたかったが、そうもいかない事情がちょっと生まれた。後で校長室にいらっしゃい。用件は、なんとなくわかってる。余計なお世話をしてくれるんだろう。多分。
 一年半しか学校に通えなかった私の半身。
 その子のためにできることを、学校側としては考えてくれたのかもしれないけれど。
 余計なお世話。

 校長室に出向き、長々とよく分からない話を聞き流した。
 向こうも私の評判は聞き及んでるみたいで、さっさと話を切り上げてくれたのは、ありがたかった。最後くらいちゃんとしなさいと担任に言われたけど、何をどうすれば良いのか、私にはわからない。
 そこで卒業記念品をもう一組もらい、鞄に突っ込んで、さっさと立ち去った。
 どこかに行きたくて、仕方がなかった。

 歓声の聞こえる教室にも、部活の先輩を見送ろうとする後輩が群がる校門にも行く気は起きなかった。
 別れを惜しもうという気分は、さっさとどこかに消え去っていた。別にどうでもいいと素直な気持ちで思ってしまった。
 昇降口のゴミ箱に、上履きを投げ捨て、私は中庭に出ることにした。中庭は何故か日頃忘れられている場所だ。暇な昼休みの日向ぼっこくらいしか、活用法が見つからないような寂れた場所。
 案の定人気のない空間がそこには広がっていた。
 石でできた冷たいベンチに腰を下ろすと、身体が急に重くなったような気がした。どこまでも沈んでいってしまいかねないような感覚。
 その感覚を振り切って、空に行けたらいいのに。

 真っ青な夏の空を見上げていると、青を背景に白いものがふわりと舞い降りてきた。
 桜の花びらかと思ったが、季節柄まだ桜は咲いていない。目をこらすと、それはまるい小さな花片だった。桜よりも白く、小さく、それでいて凛としている。
 ああ、梅か。
 中庭にひっそりと花を咲かす白梅が、風に乗って飛んできたのだ。
 ゆらゆらと。
 はらはらと。
 静かに、音もなく、まるで雪のように。

 夏の空と冬の色に、私は旅立ちと同時に、取り残されたことを知った。

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