『俄雨』

2005年3月31日
 マクドナルドで薄いハンバーガーをかじった。
 知り合いみんなが不味い不味いという味だが、私はそれほど嫌いじゃない。ぱさついた肉の味も、ぺったりと潰れたパンも。これはこれで美味しいと思うのは、それほど贅沢な舌を持っていないということなのかもしれない。
 三口目で行き当たったピクルスの味が、舌にぴりりと広がる。この味だけはあまり好きじゃない。いつもならピクルス抜きを頼むところだけど、今日はぽっかりと忘れてしまったのだ。ちょっと後悔している。
 その味を呑み込みながら、携帯電話を開いた。

 ―――声が聞こえた。

 びくりと身体が一瞬震え、背筋が張った。ぞわぞわと腰の辺りから冷たいものがはい上がってくる感触。
 思わずその体勢で固まりながら、私は声の方向を見ることさえ出来なかった。
 いつかはこんな日が来ることも予想していた。通っていた中学校は、家から歩いて十五分の距離にあった。同じように通っていた生徒達だって、結局は似たような距離に住んでいる。
 だから地元に帰ってきて遊んでいれば、いつかは彼と再会してしまうということを、私は知っていた筈なのに。

 楽しそうに友達と話している彼の声が、周囲の喧噪の中で浮き上がって聞こえる。
 動けなかった。
 体も心も、ぴたりと静止したまま、私はただ流れる時間を見送っていた。

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