一度だけ、自分を売ったことがある。
相手は三十そこそこくらいのおじさんだった。グレーのスーツを着ていて、顔は別に格好良くもなかったけど、そんなに酷いものでもなかった。だからまぁ、いいか、と思った。
夜の街を彷徨いていれば、そういう風に声をかけてくる人なんて、山ほどいる。どこからどう見ても未成年なのに、ホストクラブにまで誘ってくるのは笑ったけど。そんな大金、持ってる訳ないのに。
ずっと前にクラブで会った女の子は、援助交際の達人で、今日は当たりだったとか、外れで最悪だとか、会うたびに言った。自慢気に言うことなんかじゃないとは思うけど、別に彼女のことなんだから、どうでもいいと思って相槌を打っていた。
お金が欲しいの、と聞いたら、その子はとても不機嫌そうな顔をした。そして結果的にはお金が欲しいんだ、と呟いた。だからその過程に何を求めてるのかと聞いたら、彼女は薄く笑った。
そして君は子供だね、とどこか優しい目で囁いたのだ。
その言葉に怒ることもできなかったから、抱き合うのって楽しい、と馬鹿なことをまた聞くと、彼女は今度こそ声を上げて笑った。
相手次第に決まってるじゃん。
そう答えたその目は、もう優しくなかった。
でもその時のおじさんは、そういう筋の子から見ても、当たりだったんだと思う。
お腹が減ったと言ったら、食事に連れて行ってくれた。全国チェーンのファミレスだったけど、別に不満はなかった。私の舌は安いから、腹が膨れればそれで満足できる。
案内されたホテルは趣味が悪かったけど、きっとどこもそんなものなんだろうと思う。部屋の中央に嫌味なまでに置かれた、ベッドに横たわり、私はマグロになった。
楽しくなかった。
つまらないという意識さえなかった。
何かが私を犯そうとして、そのたびに私の中の何かが、ぴりぴりと反応する。拒絶反応とさえ言えないほど、微かな動き。
何度も反応した背中の筋が痛かっただけで、何一つ残らなかった。
薄いゴム一枚さえ破れない。
傷さえ残らない私は、もらったお札を持って、いつものクラブへその脚で出かけた。
いつものあの子と挨拶をし、お酒を一杯奢り、何もしないで店を出た。
朝焼けが世界を染め、その瞬間だけ、私の心は何かに染まった。
相手は三十そこそこくらいのおじさんだった。グレーのスーツを着ていて、顔は別に格好良くもなかったけど、そんなに酷いものでもなかった。だからまぁ、いいか、と思った。
夜の街を彷徨いていれば、そういう風に声をかけてくる人なんて、山ほどいる。どこからどう見ても未成年なのに、ホストクラブにまで誘ってくるのは笑ったけど。そんな大金、持ってる訳ないのに。
ずっと前にクラブで会った女の子は、援助交際の達人で、今日は当たりだったとか、外れで最悪だとか、会うたびに言った。自慢気に言うことなんかじゃないとは思うけど、別に彼女のことなんだから、どうでもいいと思って相槌を打っていた。
お金が欲しいの、と聞いたら、その子はとても不機嫌そうな顔をした。そして結果的にはお金が欲しいんだ、と呟いた。だからその過程に何を求めてるのかと聞いたら、彼女は薄く笑った。
そして君は子供だね、とどこか優しい目で囁いたのだ。
その言葉に怒ることもできなかったから、抱き合うのって楽しい、と馬鹿なことをまた聞くと、彼女は今度こそ声を上げて笑った。
相手次第に決まってるじゃん。
そう答えたその目は、もう優しくなかった。
でもその時のおじさんは、そういう筋の子から見ても、当たりだったんだと思う。
お腹が減ったと言ったら、食事に連れて行ってくれた。全国チェーンのファミレスだったけど、別に不満はなかった。私の舌は安いから、腹が膨れればそれで満足できる。
案内されたホテルは趣味が悪かったけど、きっとどこもそんなものなんだろうと思う。部屋の中央に嫌味なまでに置かれた、ベッドに横たわり、私はマグロになった。
楽しくなかった。
つまらないという意識さえなかった。
何かが私を犯そうとして、そのたびに私の中の何かが、ぴりぴりと反応する。拒絶反応とさえ言えないほど、微かな動き。
何度も反応した背中の筋が痛かっただけで、何一つ残らなかった。
薄いゴム一枚さえ破れない。
傷さえ残らない私は、もらったお札を持って、いつものクラブへその脚で出かけた。
いつものあの子と挨拶をし、お酒を一杯奢り、何もしないで店を出た。
朝焼けが世界を染め、その瞬間だけ、私の心は何かに染まった。
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