『血塊』

2004年1月18日
 笑った顔は非道く美しいものだと思う。けれどその美しさを、自ら好んで血で汚しているとも思う。
 闇の中で人を殺し、その血を浴びて、静かに笑う女に、少年はどうしようもなく惹かれていた。
 その深紅の瞳、迷わない心、闇に溶ける髪。それらから、きっと逃れられないだろうとも、思っていた。

「死にたくなきゃ戦え」

 冷たく言い放つ薄い唇は綺麗な弧を描いている。そのくせ、目は笑っていない。

「戦いたくなきゃ、死ね」

 すっと視線をこちらに動かし、また正面を見つめる。何もない空を。
 吐き捨てるような口調で言うと、彼女は乱暴に身体を翻し、どこかへ行ってしまった。つなぎ止めることのできない人だとは思っていた。けれど、今日だけは思わず呼び止めた。

「どちらも嫌なら?」
「……あたしにそれを聞くのか、坊や?」

 振り向いた顔は不機嫌そのもので、一瞬身体が竦んだ。
 堅くなった身体を宥めるように頷くと、女は馬鹿にしたような顔で、静かに呟いた。

「どちらも嫌なら、生きろ」

 当たり前のように告げ、女は立ち去った。
 今度こそ、その足を止めることなど、出来なかった。

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