『Why do we live?』

2004年2月1日
 女は低く笑った。非道く楽しげに。

「なんのために生きるのかって? お前、今そう聞いたのか?」

 くつくつと喉の奥で、まるで猫のように笑いながら、女は目を細めた。三日月のように弧を描いた、赤い唇が歌うように言葉を紡いでいる。

「ああ、安心したよ。お前、意外と馬鹿だったんだな」

 失礼なことを呟く女の視界には、今はきっと何も映ってはいない。
 棺桶に片足をつっこんだとか、そんな表現では飽き足らないほどに、彼女は死と隣り合わせで生きている。以前、そんなことを言ったら、彼女はやはり笑った。そして、「この身体はもう死んでるんだ」と呟いたものだった。

「良いぜ、教えてやるよ。なんで生きてるのか」

 深呼吸をするように、息を胸一杯に吸い込み、女は吐き出した。

「死ぬためさ。綺麗な死体になって、魂を空に飛ばす為さ。そうして死の直前に、命ってものを実感するためさ」

 女は楽しげに笑っていた。声を上げて、目尻に涙を浮かべながら。
 そうやって、気違いじみた嬌声を発しながらも、彼女の目はどこか冷めていた。

 まるで、悟ってしまったかのように。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索