薄暗い室内に、ステンドグラスから淡い光が差し込んでいる。床には色取り取りの影が散っていたが、この場にはそぐわないと彼は思った。
 この場所に似合うのは白い光だ。色硝子に染められた光ではない。何色にも染められることのない、鮮烈なまでの白さのみが、この場には似合うだろう。
 本来ならば、この場所は彼とは相容れない白で、染め尽くされているべきなのだ。
 そんなことを考えながら、彼は足を進めた。一歩踏み出すごとに、コツリと足音が響く。それは本当に小さな音であったが、この空間の中に、静かに響き渡っていった。

「――お祈りですか?」

 淡い光に包まれたシスターが、祭壇から声をかけた。

「いや。……どちらかといえば、懺悔か」
「それならば、神父様のお役目ですね。あちらへどうぞ」

 親切なシスターの言葉を無視し、彼はそのまま彼女に近づいた。
 日が落ちた所為で、大きな窓からも光はあまり差し込まない。その上、この教会の中に光はシスターが持つ燭台のみだ。
 それは神聖な神の場にしては、あまりにも暗い。彼のような魔性のものが入り込めてしまうほどに。

「……何か?」

 不審そうに首を傾げるシスターの目の前まで進み、彼は口を開いた。

「貴方は神を信じるのか?」
「ええ、もちろんです」

 不敬とも言える言葉に、シスターは迷うことなくこたえた。そしてじっと彼を見つめる。その真意を探ろうとするかのように。

「ならば何故――」
「…何故?」
「神聖であるこの場に、私が入り込めるのか」

 教えてはくれないだろうか。彼は小さく呟いた。どこか諦めきった声音で。
 その言葉を聞き、シスターは一瞬呆けた顔を見せた。だが、すぐにきっと表情を引き締め、彼を睨みつけ、叫んだ。

「貴方は一体なんだと言うのです!?」
「魔性のものさ。ただ、それだけの生き物」

 彼は冷めた口調で言うと、彼女の横を通り過ぎ、祭壇をじっと見つめた。
 魔性の存在を滅ぼすという神。触れれば皮膚を焼くという十字架。そして神聖なる祭壇と教会。けれど、そのどれもが、彼にとっては無力だった。

「神よ、私はいつまで生き続ければ良いのか」

 当然、答えはない。
 それだけで、彼は神への興味を失った。所詮、それだけの存在でしかないのだと、理解してしまったからだ。
 昔は、神を恐れもした。否、神という存在を信じていたのだ。そうして、いつか罰してくれないかと、殺してくれるのではないかと思っていたのだ。
 けれど、神はここにはいない。
 だからもう、彼の心から、神は消え去ったのだ。

 ただ呆気にとられるシスターを尻目に、彼は教会を後にした。彼女にすら、最早興味は湧かなかった。神を信じるものとしても、食料としてさえも。
 そうして、彼はまた独りになった。

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