心臓に銀色の刃が突き刺さった。
 ああ、終わるな。直感的にそう思い、目を閉じた。純銀でできた刃で心臓を貫かれれば、さすがの吸血鬼も生きてはいけない。それくらいは、なんとなくわかる。
 痛みは感じなかった。
 元々、痛覚自体はあるのだが、それを苦痛として感じない性質なのだ。痛い、だけどそれがどうした。自然にそう思ってしまうのだ。
 だから辛いとか、苦しいとか、そんな感覚は湧かなかった。
 ただ、息苦しいとだけ思った。

 目を開けると、今にも死にそうな顔をした彼女がいた。
 彼女は無傷の筈なのだ。何故なら、とっさに自分が庇ってしまったのだから。何も考えず、ただ動いてしまった。
 けれど後悔はしていなかった。
 これで終わりか。そう思ったけれど、それはどこか安らかな感情だった。

 そんな自分とは逆に、彼女はとてつもなく悲壮な顔つきで、何かを叫んでいた。泣いているような、とてつもなく痛がっているような、そんな声が聞こえる。
 何か言おうかと思ったが、喉の奥から血が迫り上がってきていて、上手く喋れなかった。
 だから笑って見せた。

 彼女は。
 彼女は、動きを止めて、沈黙した。そしてその後、静かに詰った。

 悪くない。
 その言葉を聴きながら、ふと思った。
 そしてそのまま、彼は息絶えた。

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