『血の匂い』

2004年6月9日
 ふわりと漂ってくる血の匂いは、貴方の香りだった。

 夜明けが近づく頃、彼女は血の匂いを振りまきながら、隠れ家に帰ってくる。
 そうして、未だ乾かない血液にまみれた服を脱ぎ捨て、冷水を浴びながら、唇の端を歪めるように笑うのだ。
 顔から髪に至るまで、全身を紅く染め上げていた彼女が、少しずつ白さを取り戻していく。赤く染まった黒い服を脱ぎ、水を浴び、白く白くなっていく。
 その様が、目に焼き付いて離れなかった。
 彼女は他人を殺すことなど、罪と思っていなかった。生きるために殺すことを、当然のことだと知っていた。
 だからどれだけ紅く染まろうと、最後には白く戻れるのだ。

 血の匂いは、彼女の匂いだった。
 彼に殺しの術を教え、生きることを教え、死ぬことを教えた、罪を知らない死の匂いだった。

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