少し仕事をこなして、また様子を見に行くと、ユーリは身体を起こして窓の外を見ていた。
その綺麗な横顔を見て、少し彼女の年齢が分からなくなった。最初、葉月は自分と同じくらいだと思っていたが、それはユーリが眠っていて、幼く見えただけなのかもしれない。
起きているときの彼女は、どことなく張りつめた雰囲気がある。凛としているような、それでいて少しの衝撃で途切れてしまいそうな。
そんなことを思いながら、足音を立てて近づくと、ユーリが音もなく振り向いた。この人は、とても静かだ。動きのひとつひとつが。そう感じた。
それからとりとめのない話をした。
彼女は矢張り少し年上のようだった。けれど、本人も年齢がよく分かっていないらしい。数えるのを十八の時にやめてしまったのだそうだ。
そうして、今は冒険者をしていたり、傭兵まがいのことをしたり、何となく暮らしているらしい。
「ユーリは一人で冒険をしてるの?」
一人旅はあまり良い物ではない。得る物は多いかも知れないが、行ける場所が限られてしまうし、命がけになってしまう。それならば矢張り仲間と旅をした方が良いと葉月は思う。その方が楽しいし、嬉しいこともたくさんあるから。
「そう、一人」
「仲間は?」
「いないわ。今はね」
「じゃあ、昔は?」
そう尋ねると、ユーリが微かに笑った。それは小さいけれど、とても優しい笑みだった。それがきっと大事なものなのだろうと、出会ったばかりの葉月でさえ察せるほどに。
「昔はね、四人で旅をしてたの。何でも出来たし、何処にでも行けた。負けることなんてほとんどなくて、本当に楽しかった…」
だから他に仲間はいらないの。
そう言葉を締め、ユーリはまた小さく笑った。今度は優しいけれど、少し傷のある笑い方だと思った。
「その人達はどうしたの?」
「故郷へ帰ったの。もう二度と会えない場所へ」
「ユーリの故郷は?」
「……私だけ、残ったの」
ユーリは悪戯っぽく笑って見せたけれど、その影に小さな後ろめたさがあるのを、葉月は見逃さなかった。きっと彼女自身、自覚していないような、小さな傷が矢張りどこかに残っているのだろう。
「もう会えないの。だから、良いの」
何が良いのか、それは告げずに、彼女はまたぼんやりと窓の外を見つめた。
その視線を追いながら、葉月はどこか縋るように質問を投げかけていた。
「――寂しくない?」
ユーリは少し驚いた顔をして、振り返った。微かに見開いた瞳が、小さく揺れた。
「ううん、全然」
だって、と彼女は続けた。
「今が一人だからって、過去の私も一人になるわけじゃないでしょう?」
ユーリは嘘つきだと思った。
けれど、その半分は本当で、ただ葉月は過去が一人でなくても、矢張り今が一人であれば寂しさを感じてしまうから。
この儚い人を、少し羨ましいと思った。
その綺麗な横顔を見て、少し彼女の年齢が分からなくなった。最初、葉月は自分と同じくらいだと思っていたが、それはユーリが眠っていて、幼く見えただけなのかもしれない。
起きているときの彼女は、どことなく張りつめた雰囲気がある。凛としているような、それでいて少しの衝撃で途切れてしまいそうな。
そんなことを思いながら、足音を立てて近づくと、ユーリが音もなく振り向いた。この人は、とても静かだ。動きのひとつひとつが。そう感じた。
それからとりとめのない話をした。
彼女は矢張り少し年上のようだった。けれど、本人も年齢がよく分かっていないらしい。数えるのを十八の時にやめてしまったのだそうだ。
そうして、今は冒険者をしていたり、傭兵まがいのことをしたり、何となく暮らしているらしい。
「ユーリは一人で冒険をしてるの?」
一人旅はあまり良い物ではない。得る物は多いかも知れないが、行ける場所が限られてしまうし、命がけになってしまう。それならば矢張り仲間と旅をした方が良いと葉月は思う。その方が楽しいし、嬉しいこともたくさんあるから。
「そう、一人」
「仲間は?」
「いないわ。今はね」
「じゃあ、昔は?」
そう尋ねると、ユーリが微かに笑った。それは小さいけれど、とても優しい笑みだった。それがきっと大事なものなのだろうと、出会ったばかりの葉月でさえ察せるほどに。
「昔はね、四人で旅をしてたの。何でも出来たし、何処にでも行けた。負けることなんてほとんどなくて、本当に楽しかった…」
だから他に仲間はいらないの。
そう言葉を締め、ユーリはまた小さく笑った。今度は優しいけれど、少し傷のある笑い方だと思った。
「その人達はどうしたの?」
「故郷へ帰ったの。もう二度と会えない場所へ」
「ユーリの故郷は?」
「……私だけ、残ったの」
ユーリは悪戯っぽく笑って見せたけれど、その影に小さな後ろめたさがあるのを、葉月は見逃さなかった。きっと彼女自身、自覚していないような、小さな傷が矢張りどこかに残っているのだろう。
「もう会えないの。だから、良いの」
何が良いのか、それは告げずに、彼女はまたぼんやりと窓の外を見つめた。
その視線を追いながら、葉月はどこか縋るように質問を投げかけていた。
「――寂しくない?」
ユーリは少し驚いた顔をして、振り返った。微かに見開いた瞳が、小さく揺れた。
「ううん、全然」
だって、と彼女は続けた。
「今が一人だからって、過去の私も一人になるわけじゃないでしょう?」
ユーリは嘘つきだと思った。
けれど、その半分は本当で、ただ葉月は過去が一人でなくても、矢張り今が一人であれば寂しさを感じてしまうから。
この儚い人を、少し羨ましいと思った。
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