『Shooting Star』

2004年6月22日
 流星が見れるらしい。
 そう教えてくれた親友の声が、まるで子供のように弾んでいたから、羽水は少し呆れたような顔をしてみせた。特に意味はない。ただ、嬉しそうな蒼河と共に、嬉しそうな顔をするのは少しばかり癪だと思った。それだけだ。
 けれどそんな羽水にはお構いもせず、蒼河は話を進めていた。だから今晩は星を見に行こう。何時には出掛けよう。行き先はどこか。これもいつものこと。

 その晩、森を小一時間歩いた場所にある、少し広がった丘に二人で寝そべり、空を見上げた。
 月が相も変わらず、銀色の光を放っている。柔らかな光が、世界に降り注ぎ、愛情を持って、命ある物を祝福している。そんな気がした。
 今のところ、月にもっとも愛されているであろう親友は、矢張り月の光を浴びて、幸せそうにゆったりとしていた。午睡を貪る猫のように、ふっと邪気が消えた表情をしている。
「蒼河」
 なんとなく名前を呼ぶと、彼は紅い瞳でじっと羽水を見つめ、それから首を傾げるような仕草をした。
「なんでもない」
 羽水はそれだけいって、空を見上げた。

 自分がそれほど月に愛されていないことを、悲しいと思ったことは、羽水にはあまりない。ただ力が欲しいと思ったことはあったが、水がいれば良いと、それだけ思った。
 月ではなく水に愛されたことを、悔しいと思ったりはしない。愛された分だけ、愛しているのだから。
 それでも矢張り、時々光が恋しくなる。
 柔らかな銀色の光に包まれ、神々しくいられる親友を、その時ばかりはつくづく羨ましいと思ってしまう。
 ただ、羽水は思うのだ。
 月に愛されていなくとも、月に最も愛されている男に、愛されてはいるだろう、と。それくらいは自惚れても構わないだろう、と。

 藍色の空を流星の群れが走り抜けるのを確認し、羽水は目を閉じた。
 月が、まるで星の群れを従えているかのように、巨大な月が、矢張り銀色に輝いていた。

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