『独り立ち』

2004年7月16日
 父が死んだ。
 そう教えてくれたのは、いつも仕事を斡旋してくれる男だった。父に、時には自分に、人を殺す仕事を与え、ソレと引き替えに金を与えてくれる男だった。
 彼は父とは傭兵仲間だったのだそうだ。ずっと昔、袂を別ち、彼は自ら戦いの場に立たなくなった。父は変わらず、戦い続けた。それでも二人の繋がりは残り、取引を交わすようになった。それだけのこと。

 父が死んだ。
 男が回してくれた仕事に失敗したそうだ。殺そうとした相手の側にいた護衛に、首をはねられたらしい。それが嘘だろうと、真実だろうと、どうでもいい。素直にそう思った。
「リネア」
 自分の名を呼ぶ男の声は優しい。彼はきっと、父の死を悼んでいるのだろう。だからこんなにも、優しく痛々しい声が出せるのだ。
 けれど彼は愚かだ。
「何?」
「それでもこの世界で生きるのか?」
 こんな愉快な問いが、この世界にあるとは!
「あたしが、あの男の娘であるこのあたしが、他の世界で生きられると、本気で思う?」
 血に濡れて生きる人間など、ろくな死に方ができるとは思えない。そんなことは父だって知っていたし、自分も知っている。そして彼も知っている。
 この世界にいる人間ならば、誰だって知っている。
 それでもここにいるしかないのだ。
「人はいつか死ぬんだ。そんなこと、知ってるさ」
 感情のこもらない声で答えると、男は押し黙り、重苦しい溜息を吐き出した。
「お前は、確実にアイツの娘だ」
 どうしてそんなところしか似なかったんだ。
 男は言外にそう呟きながら、父の遺品を渡してくれた。

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