『STARDUST』

2004年9月9日
 貴方は私にとって、煌めく星でした。

 二人で旅をするのは、大抵の場合が歩きだった。時には乗合馬車を利用したりもしたが、基本は常に徒歩の旅。昼も夜も、気が向いたときに休む以外は、大したあてもなくさまよい歩いた。
 元々私は山育ちであるし、キールも体力勝負の仕事をしていただけあって、歩くことは全く苦にならなかった。
 何より、一人でなく、二人でいたのだから。

 夜道を歩くとき、キールは静かに星を見ていた。方角を調べるかのように、長い指先で星空をなぞる。
 その横顔を眺めてから、私はいつも月を見る。そうして、祈ってもよろしいでしょうか、と心で呟いてから、静かに祈りの言葉を唇に載せるのだ。
 どうかどうか。
 何を祈る訳でもなく、全てを願った。

 荒野に並んで腰を下ろし、いつも星を見る訳を尋ねると、矢張り彼は方角を見ていたのだそうだ。大した意味はないけれど、と笑うその声が香月はとても好きだった。
 従兄とも父とも違う声。声変わりをしていない弟は除外したとして、叔父とも違う。私の身近には存在しなかった声。
 低いざらつきが鼓膜を震わせると、心の中心部が溜息を吐いて、喘ぐ。どうしようもない思い。
 そっと身体を寄せ、高い位置にあるキールの肩に頭を乗せた。彼が身じろぎ一つせず、当然のように受け止めてくれたことが酷く嬉しくて、小さく笑みがこぼれた。まるで子供のように。

 ならば、私にとっての星は貴方だった。
 月ばかりを見つめ、盲目になっていた私を、あの狭い世界から連れ出してくれたのは、他ならぬ貴方だった。貴方以外の誰でもなかった。
 空の小さな星の如く、目をこらさなければ見えない多くの人の世界で、たった一人、私を導いてくれた人なのだから。
 私にとっての唯一の人は、もうすでに決まっているけれど、それでも――

 この気持ちは、紛れもなく恋なのです。
 だから我が儘を言い、多くの人を裏切りながら、貴方に縋り付いているのです。

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