天空の城はとても高い場所にあった。
僕は虹の橋を渡る人に無理を言い、その流れに乗せてもらっただけのしがない冒険者だ。自らの力でこの場所へ来たのではない。そもそも僕には登城する資格がない。そのために神具など一つも持っていない。
けれど僕は神の城へ入り込んだ。無理矢理に。
虹の橋はそのうち消えるだろう。地上に帰ることができるのが、いつになるかはわからない。その前に生きて戻れるのだろうか。この場所で果てる可能性だって、十分にあるというのに。
それでも僕はこの地に来た。
大した意味もなく。
城への入り口となる、門の側に腰を下ろし、僕は膝を抱えた。
どうしてここまで来てしまったんだろう。そう自問自答しながら、不思議だねと首を傾げる。
なんとなく、行きたいと思った。行かねばならないと心から思ってしまった。そして次の瞬間には、もう行動を起こしていた。
けれど理由は分かっているのだ。
認めたくないというだけで。
誰よりも近い場所で夕焼けを迎えれば、あとは日が暮れるだけだ。
暗くなっていく空を見上げ、ついに姿を現した月に、僕は大きく溜息を漏らしてしまった。
思わず目を逸らしたくなる気持ちを叱咤し、ぐっと首を持ち上げ、月を見つめる。
「はじめまして、月の神様」
自然と微笑めたことが、何よりも嬉しかった――
僕の母と養い親は、いつも祈っていた。
表だっては祈っていなかったかもいしれないが、その心はいつだって月の側にいた。近寄れないと知っていながらも、焦がれて見つめ続けていた。僕はそれを知っている。誰よりも近い場所で見てきたのだから。
神を裏切った巫女と、加護からはずれた神官。
言葉にすれば陳腐だけれど、本人達は必死だった。その愛を自分は受け取れなくなっても構わない。けれど、自分の愛しい人達に、どうかご加護を、と祈っていた。
愚かなまでの、一途さで。
何故なら彼らは誰よりも、月の神に愛されていたから。
子供の頃は、どこか他人事のように見ていた光景も、今ではなんとなく落ち着かない。
結局のところ、血なのだと思う。
連綿たる血の流れが、月を恐れ、崇め、愛おしみながら、敬っている。断ち切ることなどできない力が、そこには存在しているのだ。その上、断ち切ろうとさえ思えない。
だからきっと、僕はこのまま進むのだと思う。
正しい祈り方さえ知らず、祈りの言葉も、何に祈るのかさえも分からないまま。
神の城へ登ったのは、貴方に会いたかったからなのです。
愛されているだなんて、思わないけれど。
そう呟くと、また溜息が零れた。
僕は虹の橋を渡る人に無理を言い、その流れに乗せてもらっただけのしがない冒険者だ。自らの力でこの場所へ来たのではない。そもそも僕には登城する資格がない。そのために神具など一つも持っていない。
けれど僕は神の城へ入り込んだ。無理矢理に。
虹の橋はそのうち消えるだろう。地上に帰ることができるのが、いつになるかはわからない。その前に生きて戻れるのだろうか。この場所で果てる可能性だって、十分にあるというのに。
それでも僕はこの地に来た。
大した意味もなく。
城への入り口となる、門の側に腰を下ろし、僕は膝を抱えた。
どうしてここまで来てしまったんだろう。そう自問自答しながら、不思議だねと首を傾げる。
なんとなく、行きたいと思った。行かねばならないと心から思ってしまった。そして次の瞬間には、もう行動を起こしていた。
けれど理由は分かっているのだ。
認めたくないというだけで。
誰よりも近い場所で夕焼けを迎えれば、あとは日が暮れるだけだ。
暗くなっていく空を見上げ、ついに姿を現した月に、僕は大きく溜息を漏らしてしまった。
思わず目を逸らしたくなる気持ちを叱咤し、ぐっと首を持ち上げ、月を見つめる。
「はじめまして、月の神様」
自然と微笑めたことが、何よりも嬉しかった――
僕の母と養い親は、いつも祈っていた。
表だっては祈っていなかったかもいしれないが、その心はいつだって月の側にいた。近寄れないと知っていながらも、焦がれて見つめ続けていた。僕はそれを知っている。誰よりも近い場所で見てきたのだから。
神を裏切った巫女と、加護からはずれた神官。
言葉にすれば陳腐だけれど、本人達は必死だった。その愛を自分は受け取れなくなっても構わない。けれど、自分の愛しい人達に、どうかご加護を、と祈っていた。
愚かなまでの、一途さで。
何故なら彼らは誰よりも、月の神に愛されていたから。
子供の頃は、どこか他人事のように見ていた光景も、今ではなんとなく落ち着かない。
結局のところ、血なのだと思う。
連綿たる血の流れが、月を恐れ、崇め、愛おしみながら、敬っている。断ち切ることなどできない力が、そこには存在しているのだ。その上、断ち切ろうとさえ思えない。
だからきっと、僕はこのまま進むのだと思う。
正しい祈り方さえ知らず、祈りの言葉も、何に祈るのかさえも分からないまま。
神の城へ登ったのは、貴方に会いたかったからなのです。
愛されているだなんて、思わないけれど。
そう呟くと、また溜息が零れた。
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