まもってあげたい

2005年10月1日
 君を守るよ。
 ふざけたような口調で、けれど真剣に言ってしまったのは、いつだって心の中でそう思っていたからなのだろう。

 親友から預かった養い子は、すくすくと大きくなっていった。大した病気も怪我もなければ、悪い遊びを覚えることもない。親がいないからと言って、捻くれたりもしなかった。
 とても素直に、自分がまっすぐ大きくなることを、当然のことと受け取っているかのように。否、そんなことすら意識しないほど自然に成長してくれた。
 それが氷河には嬉しかった。
 と、同時に愛おしかった。
 昔、村で暮らしていた頃、よく遊んだ幼馴染みの中で、彼は最年長だった。物心が付いたころに従妹が生まれ、世界に目を向け始めた頃に妹が生まれ、村を出ようと思い始めた矢先に従弟が生まれた。
 だから彼にとって、子供の成長というものは、いつも側にあったのだ。
 そして葉月の成長は、氷河にとって見たことのあるものだった。
 生きることを疑わない眼差し。
 太陽の光と水を浴び、空を目指す若木のようなしなやかな成長。
 それは遠い昔、あまりの美しさに、子供ながら感嘆を抱いたものと寸分違わぬものだった。
 あの誰よりも美しかった人と同じものだった。

 葉月、と呼びかけると、養い子はくるりと振り返る。
 勢いよく動くため、銀色の髪が一瞬ふわりと舞い上がって、光を反射させた。
 君を守るよ、とつぶやくと、葉月は不思議そうに首を傾けた。
 突拍子もないことを言ってしまったと、少しだけ反省し、両親の代わりみたいなものだとかなんとか、ぼそぼそと氷河は付け加えた。
 葉月はそんな彼を不思議そうに見ていたが、すぐに納得した様子で大丈夫だよと笑った。
 それからありがとう、と目を細めた。

 本当に、遺伝子というものはすごいと思う。
 どうしてこんなところばかり葉月は母に似てしまったのだろう。

 ずっと彼女に言いたかったのだ。
 本当は誰よりも守りたかったのだ。
 恋とか愛とか、そんな陳腐な言葉じゃなくて、単純に彼女の隣はあまりに居心地がよすぎたから。
 その温もりと笑顔を守り、自分を守り、二人そろって幸せでありたかったのだ。
 一度だけ、同じようなことをほのめかしたことがある。
 直接的な言葉はさけたけれど、彼女はすぐに氷河の言いたいことを察し、ありがとうと目を細めた。
 私は大丈夫。
 だけど、そう思ってくれてありがとう。
 それに、私だってあなたが心配で、あなたを守りたいと思っている。
 そう言いたげな笑い方だった。

 懐かしいけれど、同時に少し寂しくもあった。
 きっともう二度と、守るだなんて言えなくなってしまったから。

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