歌う指

2008年12月22日 歌う指
 小さな歌姫。
 あの人は私をそう呼んだ。
 愛した人の娘だと、柔らかく頬を撫でては目を細めた。

 父様。
 あの人を私はそう呼んだ。
 愛された人の面影を、歌に乗せては何かをなくした。

 ベル。
 あの人は私をそう呼んだ。
 そしていなくなった。

 兄様。
 あの人を私はそう呼びたかった。
 けれど言葉はいつも喉の奥でつっかえるばかりで。


 父様。
 貴方が愛した人は、まだどこかで生きているでしょう。
 なのに何故、彼の人を選ばなかったのですか。
 そして何故、よく似た人形を選んでしまったのですか。

 兄様。
 貴方が愛した妹は、もうどこにもいないのです。
 幻の海に溺れて、死んでしまったのです。
 あの腕を知ってしまったあの日から。



 リラ。
 あの人は私をそう呼ぶ。
 精一杯のざらついた優しさで。
 歌を零すだけの人形を、労るように呼んでくれる。

 だからもう、ここで果てることを私は決めた。

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